楽器屋探索ディープレポート Vol.6
- PROFESSIONAL PERCUSSIONについて
- 1986年開業。国内外の超一流ミュージシャン・アーティスト達が絶大な信頼を寄せる打楽器専門ショップ。その内容は、販売、レンタル、修理、輸入代行、音楽教室、貸しスタジオなど多岐に渡るが、それらは、打楽器そして音楽を愛する貞岡氏の情熱から自然派性したものである。地域のワークショップから国際行事まで、取り上げればキリのないほどの足跡があり、その貢献性は計り知れない。※2021年3月、杉並区から練馬区に移転。
- PROFESSIONAL PERCUSSION店舗情報
- プロフェッショナルパーカッション公式サイト
練馬区中村南2丁目15-1
お問い合わせ:03-5848-6228
営業時間:10:00〜19:00
楽器店の中の人に話を聞いてみた〜 プロフェッショナルパーカッション 編
このコーナーは、楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューしてお話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。
プロフェッショナル・パーカッション 代表取締役 貞岡 幸男氏
「会社がやらないで誰がやるんだ?」となるなら、「そりゃあ、俺がやるしかない!」
本日は打楽器のスペシャリスト達が慕う、高円寺プロフェッショナルパーカッション代表の貞岡幸男さんにお話を伺いします。まずは、お店の立ち上げの経緯をお願いします。
一番の理由は「日本に、如何にいい加減な打楽器しか出回ってなかったか」ということだね。
日本国内に打楽器が少なかったということですか?
そう。それまでは『打楽器の代用品』しかなかった。そりゃ、日本にもティンパニーや小太鼓なんていうメジャーなものならあったけど、例えば『幻想曲』などを演奏する際の教会の鐘の音なんて、大きなオーケストラ以外は持ってないから、チャイムなんかで代用していた。それじゃまずいだろうということでね。
貞岡さん自らが作り始めたということですよね?
そう。僕は大学時代から打楽器を作っていて、その後、コマキ楽器(JPC)に入ったんだけど、そこでは打楽器を作らせてもらえなかった。
作らせてもらえなかった?
打楽器に最も関係しているのって作曲家なんだ。打楽器のバリエーションでいろんな表現が出来るようになるのね。でも、作曲家の多くは打楽器に関しては「知らない」「わからない」って感じで、打楽器を追求することもなく、結局は代用品しか出回らない。
作曲家は打楽器の専門家ではないので難しいかもですね。
僕は、本来そこは「打楽器の会社である僕ら(コマキ楽器)が受け持たなきゃいけないだろう」と思ってたんだ。だけど、それがなぜか当時の会社はやらなかった。「会社がやらないで誰がやるんだ?」となるなら、「そりゃあ、俺がやるしかない!」ってなったわけさ。
お店には希少な楽器や珍しい楽器を沢山揃えてあります。
ドラムセットっていうのはスネアやタムの太鼓、シンバルなどの金物、そしてそれらを支えるスタンド(ハードウェア)と三種類しかない。でも、それ以外の打楽器はその数倍の種類の楽器がある。ウィンドチャイムのような金物も無数にあるし、太鼓だって民族楽器を含めいろんな形のものが膨大な種類の楽器がある。
しかしドラムセット以外の打楽器となると、使用頻度としては少ないのでは?と思うのですが。
確かに、さっきも例にした『幻想曲』で言えば、この曲を一つの(アマチュア)楽団が一年に一回演奏するということはまずありえない。プロの楽団だって一年に一回やるかどうか。つまり、楽団各々買う必要のない楽器だけど、100団体あれば年に20〜30回は必ず必要とされる楽器ではあるわけだ。だったら、ウチがそういう楽器をレンタルとしてもっていれば、みんな借りにくる。
なるほど、レンタルの需要は多そうですね。
だからレンタルにした。販売店は元々たくさんあったからね。ただ、修理や調整まで出来る店はなかなかなかったね。調整するのは楽器屋さんだと思いきや、当時は調整ができる楽器屋さんがなかった。だから僕らは、楽器の調整まできる楽器屋の走りなんだよ。
どこのメーカーともフィフティーフィフティーの関係で、「良いものは良い」というスタンスでいたい。
希少楽器だと情報や部品の調達など、修理も難しいと思います。
だから、どこのメーカーとも親しくしている。一方で、どのメーカーとも特約は結ばないようにした。
それはなぜですか?
メーカーの看板背負っちゃうと動きにくくなるんだよね。どこのメーカーともフィフティーフィフティーの関係でいたい。「良いものは良い」というスタンスで楽器を紹介していきたいんだ。
プレイヤーもエンドユース契約などで縛られると、理想の音が出しにくい時もあると思います。
だよね。逆に言えば、うちは、ごく標準的なものを用意してる。ドラムセットにしてもオーケストラなどで使うようなオファーも多いから、ハードロックで使うような超絶な深胴セットなどは置いてない。そういう特殊な音が出るものより、キチンと自然な太鼓が鳴るものを用意してるんだ。
あくまでフラットな立ち位置でありたいと。
だって、うちがPPモデルのオリジナルドラムセットを作ったら恰好がつかないし、まあ、それだったらCANOPUSのドラムセットを使えばいいしね。あそこの音はね、例えて言うなら『何もない音』なんだよ。癖が無いのが良いところ。太鼓の音がそのまま鳴る。だからうちでも使ってる。
ドラマーの個性が素直に出るという意味で素晴らしいと思います。
今では、アメリカあたりでは当たり前になって来たけど、ドラマー個々に合わせたドラムを作る売り方がある。要するに受注製作のことね。でも、日本だとそういう売り方はなかなか流行らないって某メーカーには忠告しといた。
ありがたい忠告(笑)。なぜでしょう?
日本だと『基本となるセット』がないとお客さんが注文しづらいらしい。だいたいが『基本のセットより深めに…』とか、そういう注文になる。まずは基準となる見本がないと、自分の理想の音やイメージを伝えられる人が少ない。だから、ますは『基本のセット』っていうのを用意したほうが良いよってアドバイスしといたんだ。
メーカーの命運がかかるアドバイスをあっさり言っちゃうんですね(笑)。
出し惜しみはしないから(笑)。まあ後は、楽器は自分の身体との相性もある。スティックでも自分の身体にあったものを使わないと、出そうと思ってる音なんて出ない。
ハービーメイソンは凄かった。あの人、チューニングとかどうでもいいのよ(笑)。
パワーヒッターでもすごく細いスティック使っている人もいますよね。
パワフルに音を出すのって、スティックじゃなくて腕前なんだよ。キチンとした腕を身に付けるから細いスティックでもパワーが出る。それが出来ない人たちが太いスティックで大きい音を出そうとする。だから手首壊しやすくなったりするよね。それとスティックが太すぎると、音色をコントローしにくい。ある一瞬で繊細な音を出したいときなんかは、腕前とスティックの相性は重要な要素になってくる。
そう思うと、パワープレイを魅せれる領域にまで達している人は凄いですね。
昔、Premierのイベントで、神保彰とハービーメイソン(ジャズ/フュージョン・ドラマー)の演奏を聴いたけど、ハービーメイソンのバックビートのパワーは凄かった。何が凄いって、あの人、チューニングとかどうでもいいのよ(笑)。彼は、スリリングというか、良い意味でいい加減なのね。タム回しなんて途中でフープとかにあたっちゃったりしてるんだけど、それでもあのバックビートに一瞬に惹きこまれる。
気合の入れどころと抜きどころが絶妙なのでしょうね。
神保彰は凄く上手いけど音的にはライトでしょ。いろんな人から「神保彰さんみたいな音を出したい」って言われるけど、そんな時はいつも「ドラムは安いものでいい。その代りPAに30〜40万かけなよ」って言ってる(笑)。音に決定的な個性が無い場合は、トリガーが勝負になるからね。逆にドラマーが音をちゃんと出せても、PAで変なふうにいじられちゃったら、それは、結局は単なる人間トリガーだもん(笑)。
部屋鳴りも含めた音で世界観を持っているドラマーにとってPAの役割は重要ですね。
マニピュレーターもそうだよね。音の特性をちゃんと知らない内に、勝手にドラムの音作っちゃうのは、音を壊してることとなんら変わらない。だから表面的な作業で作るんじゃなくて、ちゃんとした理屈を分かってからでないと、打楽器のことなんて教えられない。でも、倍音系列を知らないとか、そういう人多いからな〜。
その都度、現場で教えるというのも大変ですね…。
こういう話を講師として話して欲しいと誘われるけど、そういうのは嫌なんだ。こんなの、二、三回勉強して覚えられるものじゃない。ずっと継続しないと覚えられないものだから。
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