楽器屋探索ディープレポート Vol.10
- Music Life TAO東京店について
- 1981年に広島でスタートした管楽器専門店TAOの東京支店。1997年に東京支社を開設、その後大久保に移転して現在に至る。サックス・クラリネット・フルート・トランペット・トロンボーンなど全ての管楽器を取り扱う専門店。スタッフ全員が修理技術を有するという職人性と、その職人性を感じさせない柔和な人当りで、管楽器が集まる大久保エリアで多くの音楽通が推薦するお店。ビンテージものも数多く扱う店内の一角にある飾り気のない「作業工房」もファン垂涎の萌えポイント断言できる。
- Music Life TAO東京 店舗情報
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【東京店】新宿区百人町1-17-10 STビル2F
TEL.03-5338-1122
営業時間:AM11:00〜PM7:30 (水曜定休)
【広島店】広島市南区的場町1-2-3
TEL .082-262-7744 (火曜定休)
ミュージックライフタオ公式サイト
楽器店の中の人に話を聞いてみた〜 [Closed] Music Life TAO 東京店 編
このコーナーは、楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューしてお話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

ミュージックライフTAO 東京店 下園怜氏
管楽器専門店、ミュージックライフTAO東京店の下園怜さんにお話を伺います。よろしくお願いします。まずはお店の紹介をお願いします。
ビンテージや中古を中心に管楽器を取り扱う専門店です。広島からスタートして約34年、その後、大阪、東京、札幌に出店しましたが現在は広島、東京の2店舗で東京店は今年で約18年になります。社長が広島出身というのもあり本店は広島になります。
結構な老舗なのですね。下園さんはいつ頃からいらっしゃいますか?
東京にきてからは11年になります。初めは大阪の店舗に一年ほどいました。それからはずっと東京です。
大久保は楽器店が集まっています。ライバル店も多そうですが、メリットもありますか?
そうですね、近くには石森管楽器さんやDACさんなど大きくて歴史もある管楽器専門店が多いのでお客様は集まります。TAO東京店は最初、高田馬場にあったのですが、やはり「管楽器のメッカは大久保だろう」ということで移転してきました。なので、この街では、うちは後発のお店になります。
大久保はとくに管楽器を扱うお店が多い印象があります。
東京都内ですと御茶ノ水あたりは、あらゆる楽器のお店が集まっているイメージですが、大久保エリアはあきらかに管楽器店が集中していますね。
管楽器修理業においての「元祖」的な店や人はいるのでしょうか?
それは石森管楽器さんと高橋管楽器さんでしょうね。この大久保はもとより日本の中でも一番の老舗ではないでしょうか。
楽器修理の技術の習得は終わりのない世界。
管楽器の修理は、その道のプロがいないと無理だと聞きました。管楽器修理やメンテの技術を習得するには何年くらいかかるのでしょうか?
それはもう、終わりのない世界ですよ。基本的な事ができるようになっても様々なコンディションの楽器やお客様のニーズに対応しないといけないですし、経験を積んでやっと見えてくるものもありますから。
多様な楽器の中でも、管楽器はひときわ難しそうですからね。
板金のような作業もあるし、コンマ何ミリの世界という細かい作業もあるので、さまざまな技術が必要とされます。
とくにビンテージの修理などは難しそう、というか想像するだけで緊張します。
そうですね。現行品の楽器でも難しい修理はありますが、ビンテージの楽器は個性的で魅力のある音色を持った楽器が多い半面、構造が未成熟な部分や経年劣化した部分があったりするので、ビンテージの楽器に対する知識と幅広く柔軟な修理対応が必要になると思います。
修理・メンテナンスは下園さんご本人で行うのですか?
はい、スタッフは全員が修理することができますし、ここ(東京店)では僕自身が修理しています。
ということは、店頭で技術スタッフと直接相談できるのですね。
はい、お客様と直接やりとりさせていただいています。うちの良さの一つかと思います。普通は、お店の人が預かって、そして修理担当に託すということも多いですからね。

それはとても安心ですね。楽器修理をメーカーに回されて、経過や詳細がわからないということがよくありますので。ところでここのスタッフは何名いるのですか?
東京店は実質、今は僕一人でやっています。今年の4月に修理の出来る先輩スタッフが辞めてしまったので…。
それは、休むに休めない重要な立ち位置になりましたね。
社長が東京に来た時に、まとめて休ませてもらっていますが、今年は正直ハードです(笑)。
演奏も好きですが、それ以上に物を作るのが好きでした。
では次に、下園さんの音楽との出会について教えてください。
高校生の時に吹奏楽部に入ってから…、というのが、管楽器の出会いとしては一般的だと思うのですが、うちの学校はジャズバンド部、とくにビッグバンドをやっている学校でした。
高校生でジャズバンド部…、ちょっとハードルが高そうですね(笑)。
いやいや、そんなこともないですよ(笑)。それでサックスを始めるようになり、そしてジャズが好きになりました。
憧れのサックスプレイヤーなどはいましたか?
当時僕はバリトンサックスをやっていたので、バリトンの名手ジェリー・マリガン(アメリカのジャズ・ミュージシャン・1927-1996)なんか好きでしたね。ただ、演奏も好きでしたが、それ以上に物を作るのが好きだったので、卒業後は管楽器の修理の専門学校に行きました。
若くして職人への道を選択したと。
まあ、興味があったのがこっちの世界だったっていうだけなんですが(笑)。
専門学校卒業後、管楽器業界に進んだのですか?
いえ、就職活動もやりましたが御縁がなく、その当時アルバイトをしていた居酒屋のオーナーから誘われて社員として2年間板前をやりました。
基本的に物つくりが好きなのですね。
「手作業」が好きなんでしょうね。結構楽しかったですし、とても勉強になりました。その後、学生の時に何度か訪問させていただいていた管楽器修理工房の方と、大阪のサックス奏者の方からお話をいただいて大阪のTAOに就職することになりました。
下園さんの出身はどちらですか?
出身は兵庫です。
ということは、兵庫、名古屋、大阪、そして東京にたどり着いたんですね(笑)。
結果そうなりましたね(笑)。

初歩的な質問ですが、管楽器はジャンルによって練習方法から、大きく変わると聞きました。というのも、私はドラムをやるのですが、どのジャンルでも基本的な部分は同じところを通ったりするので…。
管楽器のなかでもサックスに関してはもう全然違いますね。最初から「畑違い」な部分が多いと思います。例えば、同じ料理でも和食と中華のような違いがあるような、それくらいジャンルによって専門的な別れ方をしますね。たとえばサックスなんかだと、クラシックとジャズとではマウスピースのくわえ方から全く違ってきます。
なるほど、ジャンルによって全く違う、管楽器ならではですね。
若いうちならば、そういったジャンルによる違いも、将来の演奏の幅を広げる基礎になったりしますが、大人になってから始める場合は、最初からやりたいジャンルの先生に習うのがオススメですね。時間もないし柔軟性も少ないので。
始める前に、ある程度やりたい音楽、ジャンルを明確にしておいた方が良さそうですね。
よく、大人の方で『いつかジャズをやりたいと思って、とりあえずは近所のクラシックのサックスの先生に習っている』という人がいますが、これは個人的にはオススメしません。教え方がまるで違うんですよ。ジャンルは絞った方がいいと思います。
楽器が好きな面白い人が集まる「ミュージシャン寄り」のお店。

実は、今回の取材にあたって、管楽器系のミュージシャンからTAOさんを推す声が少なくありませんでした。
え、そうなんですか!? それはうれしい声ですが、たぶん…、ラフな店だからじゃないですかね(笑)。
ラフ(笑)。でも、良い意味で「くだけたお店」だという印象を受けました。
うちは音大出身のスタッフがいるわけではなく、どちらかというと、みんな修理系学校を出ている技術系ですし、社長も昔は演奏もしていましたが、バイクや車も好きでして「趣味性」の高い人がそろっています。
職人や「好きもの」が集まっていると(笑)。
お客さんも、本当に楽器が好きな人が多いと思います。商品もビンテージや中古がメインですからね。物にこだわりのある面白い人が集まってくる「ミュージシャン寄り」のお店かもしれませんね。
では最後になりますが、TAO、そして下園さんからメッセージなどありましたらお願いします。
メッセージって意外に難しいですね…。うちは管楽器専門店でビンテージなども扱っているので、お堅い店だと思われるかもしれませんが、全然そんなことはありません。他のお店で購入された楽器であっても修理しますし、そして僕ら自身も演奏するので演奏者の視点はもちろん、それ以上に技術者としての視点から、楽器の状態やマウスピースなど、さまざまな内容にお答えできます。なので、わからないことがあったら気軽にお立ち寄りいただけると幸いです。
とても柔和で話しやすいお店でありながら、職人としての確固たる一面を実感しました。本日はありがとうございました。
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