楽器屋探索ディープレポート Vol.34
- ベースショップ高崎 について
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2016年6月、世田谷区等々力にオープンしたコントラバス専門店。目黒通りに面した大きな窓のある店内は、若い方や初めての方も訪れやすい、明るく開放的な雰囲気。コントラバス、ウッドベースの修理・調整・販売を通じて「コントラバスのすばらしさを、より多くの人に広めていきたい」そう笑顔で語るのは、店主でコントラバス職人の高崎仁氏。原形をとどめないほどこわれてしまった楽器でも「灰にならない以上は修理可能」という高い技術力で、大切な相棒である楽器に真心で向き合う。世界中のベーシスト御用達の「弦楽器工房高崎」系列店。
- ベースショップ高崎 店舗情報
- ベースショップ高崎 公式サイト
世田谷区等々力四丁目17-10 高橋ビル2F
TEL:03-6821-5077
営業時間:11:00~19:00 / 日曜定休
楽器店の中の人に話を聞いてみた〜 ベースショップ高崎 編
このコーナーは、楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューしてお話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

株式会社ベースショップ高崎 代表 高崎仁氏
本日は、等々力のコントラバス専門店「ベースショップ高崎」代表の高崎仁さんにお話をお伺いします。オープンはいつになりますか?
2016年6月にオープンしました。お店の進化という意味を含め、代々木にある「弦楽器工房高崎」から新たに店舗展開しました。
弦楽器工房高崎はベースプレイヤーには有名な専門店です。創業の経緯についておしえていただけますか。
弦楽器工房高崎は、父の高崎秀彰が1990年に創業した店で、それ以前、父は同じくコントラバス専門店「弦楽器の山本」の山本(隆志氏)さんのもとで仕事をしていました。
「弦楽器の山本」さんとは、どのようなご関係だったのですか?
山本さんは父の先輩にあたります。ともに「文京楽器」で働いていた同僚で、当時店長をされていたのが山本さん、父はベース部門を担当していたそうです。もう、40年くらい前の話になるでしょうか。
文京楽器(文京区)は、弦楽器専門店の老舗です。
当時の文京楽器は、およそすべての弦楽器をあつかう専門店で、なかでもコントラバスの修理、調整をやっている唯一といえるお店だったそうです。そこから、山本さんが独立されて新大久保にお店を開業されるときに父も同行しました。
日本を代表するコントラバス職人のお二人が一緒に仕事をされていたのですね。
山本さんと6、7年ご一緒したのちに、父も独立して自分の店舗をオープンしました。
ところで、楽器専門店の多くは都心部に集まっていますが、お店の場所はどのように決められたのですか?
コントラバス専門店としては、父の店が代々木(渋谷区)に、山本さんの店が高田馬場(新宿区)にありますし、多くの楽器店が新大久保や池袋などの山手線西側に集中しているので、別の各沿線をリサーチして候補を決めました。
そのなかで、等々力を選んだ理由は?
それぞれの沿線や駅の特性も考慮しましたが、いちばん重要なのはコントラバスプレイヤーの人口ですので、オーケストラの数を調べました。東京がもっとも多いのですが、アマチュアのオーケストラを含めれば、横浜市と川崎市だけでも相当数ありました。学校も多い地域ですからね。

コントラバス、ウッドベースは活躍できる場が多い楽器
演奏者人口の多い神奈川方面からのアクセスを考慮されたわけですね。
はい。横浜や川崎にお住まいの方からすると、平日都心に通勤しているのに、休日まで車にコントラバスを積んで都心部に向かうのはちょっと大変です。その点、この場所だったら、(横浜や川崎方面からは)多摩川をこえなくてはなりませんが、少なくとも渋谷や新宿は経由せずにご来店いただけます。
目黒通り沿いで場所もわかりやすいですし、静かで落ち着いたロケーションです。
どなたにもご来店いただきやすい雰囲気のエリアであることも、大きなポイントでした。また、都心部になりますと、どうしても常連のお客さまで固まってしまう傾向もあって、楽器を始めたばかりの初心者の方やアマチュアの方には入っていきにくい印象がありますよね。
とくに歴史ある専門店となると、初めはちょっと勇気がいるかもしれません。そこは心配しなくても大丈夫ですか?
はい、おかげさまで、これまでお付き合いさせていただく機会のなかったような、お客さまにも新たにご利用いただいております。でも、もっと中高生や若い方にもご来店いただきたいくらいで、楽器販売のほうでもお求めになりやすい値段設定をさせていただいています。このあたりの取り扱う楽器については、父とも相談しました。
コントラバスの値段というと、いまひとつ想像が付きません。具体的なお値段をお伺いしてもよいですか?
コントラバス専門店で扱う中古やオールドの楽器の多くは150万円以上します。僕のところでは安いものであれば10万円くらいからコンディションの良い中古楽器をご用意できますので、ぜひご相談いただきたいです。
ありがとうございます。最近は、コントラバスを目にすることが増えているような気がしますね。
はい、そう思います。じつはエレキベースよりもコントラバス、ウッドベースは活躍できる場が多い楽器で、クラシック、ジャズ、オーケストラや吹奏楽、ビッグバンド、最近はポップスでも使われることが多くなってきています。

18年間、超現場主義の父のもとで経験を積んできました
つづいて、高崎さんご自身についてお聞きしたいのですが、楽器に関する技術はどこで習得されたのですか?
高校を卒業してすぐに、父の店に入りました。楽器修理や製作の学校で基本を習ったほうがいいのかとも考えましたが、父から「そういうステップアップは必要ない。俺が教えるから。」と言われまして、以来18年間、父の元で経験を積んできました。
プロフェッショナルのお父さまから直接レクチャーを受けられるのであれば、学校に行くまでもないですね。
というわりに、超現場主義でした(笑)。お店に入って一週間くらいザックリと教えてもらい、一度お手本を見せられたあとで「じゃ、やってみて」と。いやもう「え?」ってなりますよね (苦笑)。それで出来なかったら、もう一回教えるから、と。
いきなり本番ですか!コントラバスに触れること自体がはじめてですよね?
はい。それから、すぐにお客さまの接客も担当させてもらいました。実際に僕に接客をさせて、お客さまが帰られてから「こういう場面では、こういう風にした方がいい」と具体的なレクチャーをしてくれました。父もそのようにして習得していったのだそうです。
技術習得には効率的だと思いますが、なかなかリアルな仕事の現場では得がたい環境ですよね。
ありがたいことに、お客さまも「高崎の息子」ということで、受け入れてくださっていたのだと思います。年数を重ねていくとともに、メインの楽器を預けてくださるようになり、修理も接客も、現場でくりかえし経験を積ませてもらいました。父親からはもちろん、お客さまに育てていただいたと思っています。ほんとうに感謝しています。

灰にならない限り、かならずその魅力を再生します
それでは最後に、これからコントラバスを買おうとしている方へのアドバイスをいただけますか?
楽器の修理や調整を大切にしているお店を選んでいただきたいと思います。少なくとも、楽器を「つるし売り」しているようなお店で購入するのは、避けていただいたほうがよいかと思います。
「つるし売り」というのは量販店にディスプレイしてあるような?
はい。楽器が放置されて、すさんでしまっている可能性がとても高いんですね。楽器はつねに修理・調整ができるところに置いて気にかけてあげないと、一人前の楽器として鳴ってくれません。人間と一緒かもしれませんね。
まさに、楽器は生きている、ということですね。
弦楽器の世界では、1700年代に製作されたバイオリンが現役の楽器として使われていますし、うちで修理・修復させていただいているものでも1800年代のコントラバスが健在です。本物の楽器は、灰にならない限り、本物の職人の手により、かならずその魅力を再生できるものです。ええっと、便宜上、職人と言いましたが、僕の感覚的には「楽器屋」なのですけどね。
はい、ニュアンスは伝わっているかと思います。専門店ですが、初心者も安心して来店していただけるお店ですね。
コントラバスは一生続けていける、おもしろい楽器です。このお店を通じて、コントラバスのすばらしさを、より多くの人に広めていきたいです。これから始めてみたい方も、いつでも安心してご来店ください。
人生と同じように、変化を楽しみながら、コントラバスの新たな魅力に出会っていただきたいです。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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