楽器屋探索ディープレポート Vol.15
Amrita Custom Guitars
- アムリタ・カスタムギターズについて
- サンスクリット語でア・ムリタ(不死・甘露)と名付けられたハンドメイド・ギターブランド。渋谷キャットストリートから1本入った裏通りに2012年直営店オープン。ギターテックとしてプロフェッショナルな現場に精通する店長・山本氏のもと、Player’s Vintageをコンセプトに、ハカランダを使用したハンドメイドギターの製作・販売、カスタムオーダー&リペア、アナログLPやアクセサリー類も揃う、ミュージシャンのための音楽空間。
- アムリタ・カスタムギターズ店舗情報
- アムリタ・カスタム・ギターズ公式サイト
[移転前] 渋谷区渋谷1-22-5 2F
お問い合わせ:03-6418-6311
営業時間:13:00〜20:00(水曜定休)
楽器店の中の人に話を聞いてみた〜 アムリタカスタムギターズ 編
このコーナーは、楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューしてお話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。
アムリタ・カスタム・ギターズ店長 山本 キヨシ氏
本日はアムリタカスタムギター店長の山本キヨシさんにお話をお伺いします。よろしくお願いします。まず、お店設立の経緯を教えてください。
このお店のオーナーは「オフィスオーガスタ(山崎まさよし、スキマスイッチ、元ちとせ等が所属)」という音楽プロダクションなんですよ。オーガスタの社長(森川欣信氏)と知り合ったのはもう28年くらい前で、その当時、森川さんから「山本はギター屋をやったらいいよね」とか言われていて。それが現在に至る原点になっています。
なるほど、オーガスタによるお店だったのですね。お店を始めたのはいつ頃ですか?
最初は通販のような形でやっていて、2009年くらいだったと思うんですけど…。詳しくは覚えてないので間違ってるかもしれないです(笑)。それで、実店舗がないと楽器にさわれないので、この直営店を3年前に追加オープンしました。
お店をはじめるきっかけは?
うちの店にギターの監修役がいるんですけど、彼が「ハカランダ(ブラジリアンローズウッド)のストックがあるので、ギターを作ろう」というのが立ち上げのきっかけですね。
ハカランダというのは高級材なのですか?
50〜60年代までは普通にギター製作に使われていた木材でしたが、68年頃からワシントン条約で輸出入が禁止になっちゃったんです。原産地のブラジルじゃいっぱい生えているらしいんですけどね。
お店のギターはハカランダを使ったものがメインですか?
基本的にローズ指板と言われるタイプのモデルはハカランダを使っていますね。
ハカランダのギターはやはり音が違うのでしょうか?
うーん、それだけ弾いても(相対的なものなので)わからないし、ハカランダの音ってどんなんだって言われてもわからないと思います。でも、弾き比べると、ギターと相性がいいなと思います。
そのあたり詳しく聞かせてください。
YAMAHAのギターで、60年代後半〜70年代初頭に有名なモデルがありまして、それを、たまたま修理で預かっていたら、確かにYAMAHAの鳴りなんだけど、ハカランダの材を使っていないモデルとは質が違うというか、こっちの方が弾いていて楽しいなというニュアンスを感じました。具体的な理由はわからないけど、「何かいい感じがする」というのが重要かなと思っています。
頭で考えるよりも弾いて良ければいいじゃん、みたいな感覚。
お店としては、その「何かいい感じ」の部分を特化させようと?
そこに関しては、たぶん僕だけですね(笑)。僕はスペックがどうのとかよくわからなくて、頭で考えるよりも弾いて良ければいいじゃん、みたいな感覚なんです。
細かいことは置いといて、まずは音ありきということですね。
よくお客さんから「これはアッシュですよね?」とか言われると、「あれ?どうだったっけかな?」ってなることもあって、ネットで調べたりしてますよ(笑)。僕としては、楽器に詳しくなるよりも、お客さんと話をして、気に入ってもらって、音が気持ち良ければいいんじゃないかな、と思ってます。
エレキもアコギも扱っているんですね?
そうですね。こちらのオリジナルギターは間隔も広めに取って展示してあります。こっちは預かり物とオーナーのストックです。
小学生の頃からCHABOさんに憧れて、ギターを弾きたかった。
山本さん自身はギタリストでもあるのですか?
ギターも弾いてますが、バンドやアーティストのコンサートツアーに同行してギターの管理、いわゆるギターテックみたいなことをやっています。ツアーに同行する際には、お店の方は休んでいます。今はザ・クロマニヨンズのツアーの最中です。
山本さんと音楽の出会いについて教えて下さい。
小学校の時にRCサクセションのCHABOさんに憧れてギターを弾きたいなあって思ってました。中学2年生の時に、ようやくギターを手に入れ、そこからはひたすらRCサクセションのコピーをしました。ギターばっかり弾いてて、勉強しないから親からよく怒られてましたね。
小学生でRCサクセションというのは早いですね。
その頃は、RCサクセションもバリバリの時でしたからね。中学生になると、周りにはハウンドドッグとか佐野元春が好きな人が多くなってきましたが、僕はRCサクセションにしか興味なかったです。
高校生になってもRCサクセション一筋で?
高校生になるとパンクとかも好きになって、宝島あたりで盛り上がっていたピストルズ、クラッシュ、ダムドあたり、とRCサクセションを聴いていました。
高校卒業後はすぐに音楽の道に?
僕は出身が茨城なんですが、高校卒業後は東京の大学に進学しました。大学に行く前、茨城の知人で、清志郎さんが大好きな4つ上の人がいたのですが、RCサクセションの話で盛り上がって、ライブも一緒に行ったりしてたんです。その彼は、飛び込みでRCサクセションの事務所に入ることが出来まして、うらやましく思いました。
情熱的な方ですね。
そしたら、大学2年生のある日、その人と新宿でばったり会ったんです。彼の「今から新宿LOFTに、三宅伸治さんがやってる『MOJO CLUB』を手伝いに行くけど一緒に行く?」と誘われて付いて行ったんです。
地元の友人との運命的な再会ですね。
三宅伸治さんの存在は知っていたんですけど、ライブを観るのは初めてで、それは衝撃的でした。そこから何かあると、三宅さんのライブを手伝いに行くようになりましたよ。MOJO CLUBも東芝EMIとキティと契約し、ツアーもあるということで、三宅さんに声かけてもらって、学生だったのに親に内緒でツアーに連れて行ってもらっていました。そのMOJO CLUBのディレクターが森川さんでした。
そこで森川社長と出会うのですね。山本さんのギターテックに関する知識を認めてもらったという感じでしょうか?
いや、そこは関係ないと思います。当時は楽器テックというポジションが確立されていなかったので、「いつまでも楽器運びみたいなことをやっていても、一生やっていけることでもないんだから、店でもやった方がいいんじゃないか?」って親心みたいに言われて。
量販店と同じことをやっていたら絶対だめ。徹底してやりたいことを詰め込む。
ギターの製作はどのように進められていくのでしょう?
監修役の後藤氏が、「こういう感じでこういうのを作ろうと思うんだけど、どうかな?」と、伝えてくるので、僕はそのアイデアに対して「お客さんのニーズや、こういうのがあった方がいい」などと現場の意見を加えて作っていきます。
どのような感じでアイデアを出していくのですか?
例えば、ボディとヘッドの色が同じなのをマッチングヘッドって言うんですけど、人気があるんですよ。基本は色付いてないんですけど。Fenderの年代によってはマッチングヘッドがあって、色が抜けてきたりすると、いい感じになったりするんですよ。こういうデザインを提案しました。
ギター職人のアイデアが詰まった贅沢なギター製作ですね。
量販店と同じことをやっていたら絶対だめなんで、そこは徹底してやりたいことを詰め込むようにしています。
お客さんにも嬉しいこだわりですね。では最後にお店からのメッセージをお願いします。
自分のギターを1本しか持っていないと、そのギターの状態の良し悪しがわからないと思います。ウチに見せてもらえたら、僕はプロが使っているギターをいっぱい見ているので、他の楽器屋の店員よりもより良いセッティングが出来ると自負しています。ギターを買いに来てくれるのはもちろん嬉しいけど、メンテも受けていますので、まずは、この店の空気が気になった方はぜひ遊びに来て欲しいです。
店内も洗練されていて、ぜひ一度来店してアムリタの雰囲気を味わっていただきたいですね。
それともう一つ、僕はRCサクセションを観て衝撃を受けたのですが、今の時代はそういうのが希薄な感じがしていて、やっぱり「音楽のかっこよさ」をもっとみんなに分かって欲しいですね。この店には、僕がかっこいいと思うギターもレコードもいっぱいあるので、よりマニアックに増やして音楽的な店にしたいと思っています。「バンドやりてぇ」とか「ギター欲しい」とか「レコード聴きてえ」とか、憧れを持ってギターショップを覗いてくれる人が増えるといいなあって思います。
音楽文化の再評価につながるお店づくりに期待しています。
もっと音楽にワクワクするような世界になって、そんな人たちが増えたら、きっと戦争とかに惑わされない良い国になると思います。
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