e楽器屋.comが取材した楽器店・インタビュー特集(全36回・2015年3月〜2019年12月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

楽器屋探索ディープレポート Vol.12

弦楽器の山本は、2019年7月末日をもって閉店しました

コントラバス専門店 弦楽器の山本

弦楽器の山本 について
1984年設立。国内で最初に出来たコントラバス専門店。まだ新大久保に楽器店も少なかったころから店を構え、数々の実績を重ね、数年前に高田馬場へ移転。その確かな技術と経験で、コントラバスという巨大な楽器を、プレイヤーそれぞれの使い勝手の細部にまで調整することを心がけており、コントラバスの世界的巨匠ゲイリー・カーらも信頼を寄せる職人の店である。
弦楽器の山本 店舗情報
「弦楽器の山本」
新宿区高田馬場1丁目29-2 恒栄ビル2F
お問い合わせ:03-3209-2134
営業時間:AM10:00〜PM7:00(月〜金)
AM10:00〜PM6:30(土)※日曜定休
弦楽器の山本

楽器店の中の人に話を聞いてみた〜 [Closed] 弦楽器の山本 編

このコーナーは、楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューしてお話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

弦楽器の山本 代表取締役 山本隆志 氏

本日は、コントラバス専門店『弦楽器の山本』社長の山本隆志さんにお話を伺います。まずは、お店の歴史を教えてください

今度(2016年)の8月で32年になるのかな。最初は新大久保の大久保通りのビルの2階でやってたんですよ。2012年に高田馬場のこの店舗に移転しました。

新大久保は都内でも楽器店エリアですが、なぜ高田馬場に?

韓流ブームなどでにぎやかになりすぎて、お客さんがコントラバスを担いで歩くのも不便になってきたので移転しました。旧店舗は駅から2分で便利だったんだけど、古いビルだったからエレベーターがなかった (笑)。今の新大久保は楽器店が多いね。昔はそんなになかったんだけど。

日本で初めてのコントラバス専門店とのことですが、取り扱うサービスについて教えてください。

コントラバスの製造、国内外コントラバスの修理調整、販売がメインです。「弦楽器の山本オリジナルブランド」の楽器も販売しています。私自身は修理専門の職人出身なので販売の方は本職ではないのですが(笑)。

海外で作られたものがメインになるのですか?

そうですね、イタリア製ハンガリー製ルーマニア製などの楽器を輸入して販売しています。日本のメーカーは非常に少なくなってきましたね。昔、私も作ったことはあるんですけど、(日本では)コストがかかりますね。

コントラバスはどの国で作られたものが良いのですか?

ストラディバリウスって聞いたことあると思いますけど、バイオリンからコントラバスまで弦楽器はイタリア産が名器とされています。日本製も優れているものがありますが、やはり舶来思考っていうのがあって、どんなに良くても「イタリアのものの方が良し」とされる風潮はあります。

日本人の職人による仕事もスゴそうですけどね。

坂本虎次郎というコントラバス製作の名匠がいて、現在90才くらいの方で、とてもすばらしい仕事をしてくれます。坂本さんとは、私がお店を始める前、勤め仕事をしている頃に知り合いましてね。彼とよく、コントラバスを演奏されるお客さんに、なにか還元できることはないか? と話し合っていました。

何かする事になったんですか?

アメリカのコントラバス奏者ゲイリー・カーを呼ぼうということになりました。当時(80年代以降)、クラシックバスのほとんどの奏者は彼の音楽を聴いていて、その演奏に驚き、影響されていました。で、ゲイリーを呼ぼうということになって、手紙を書き、それで来日してくれることになった。

ゲイリー・カーに手紙を出して日本に呼んだ。彼の演奏はすごかった。

世界的なコントラバス奏者を日本に招くことに成功したと!

そう。とにかくゲイリーのパフォーマンスはすごかった。彼はエンターテイナーでクラシックの会場なのにお客さんを笑わせるんですよ。その後、キングレコードでレコーディングもしてCDを出したんですが、これも記録的なセールスになった。

商業的にも成功するとは、まさにコントラバス界のスーパースター。

ゲイリーにコントラバスを習っている日本人に、ゲイリーのCDや教則本を送ってもらってネットで販売したところ、一晩で売り切れました。ゲイリーはアメリカでソリストとしてやっているから、教則本も日本のものとは違って、固定観念がなくていいんですよ。

その後も、ゲイリー氏とは懇意にされていたんですか?

その後も、何度か来日してもらいました。年齢のこともあって「もうツアーをやめる」というので、ゲイリーと彼のピアニストを日本に呼んで、うちのお客さんを無料で招待してライブハウスで演奏してもらいました。ずいぶんと私も楽しませてもらいましたよ。

コントラバス奏者といのは、やはり数ある楽器の中でも少数派ということになりますよね。

クラシックのオーケストラで、コントラバス7、8人に対してバイオリンは20〜30人いるわけだからね。それでも、最近は中学高校の吹奏楽部にコントラバスを入れている事も多く、女性奏者も増えました。

女性のコントラバス奏者も増えているのですね。大きいので大変そうです。

手も小さいし、基本的に筋力の差があるからね。でも、不思議とベースにハマった人たちって抜けきれないんです。卒業後も続けているという人も多いです。

ボディ鳴りの魅力。必ずまたアコースティックバスに戻ってくる。

低音は本能をくすぐると聴いたことがあります。低音楽器には中毒性がある?

そう思います。自宅で演奏するとうるさがられる、ということでアップライトベースとアンプを使う人もいるけど、ボディが鳴る生の音を聞いて好きになった人は必ずアコースティックのコントラバスに戻ってくるんですよ。

やはり、アコースティックとエレキは別物扱いでしょうか?

まったく別物だと思ってます。ジャズなんかでは音量が必要になるので、ピックアップ(弦の音を拾うマイク)を付けますが、それでも楽器本体の生音を重要視します。

ジャンルによって楽器の作りが違うものなのですか?

基本的には同じです。楽器にはひとつずつ個性があり、クラシック向き、ジャズ向きというのは、それぞれ弾く人が決めるんです。

ジャンルを問わず同じ作りなんですね? それは意外でした。

楽器は『鳴り』が基本です。ここは変わりません。そこからは個人の趣味ですね。細かく言うと、楽器の個体差や、弦の質の違いが関係してきます。弦は同じ素材でも製造の仕方によって全然違います。オーケストラの弦として作ったものがジャズの人に好まれることもあります。

なるほど、奏者の趣味によるのですね。お店ではクラシックとジャズ、どちらの需要が多いですか?

クラシックですね。当店のお客さんは、楽団などの団体に入っている人が多いです

お客さんはプロの方が多いのですか?(インタビュー中にそのような感じのお客さんが来店している。)

プロもアマチュアも来られます。アマチュアの方が楽しんでやってる、という方が多いのではないでしょうか。

最近、大手量販店も楽器別に専門店舗を展開するような形態が増えているように思います。そのあたりの影響はありますか?

多少はあると思います。「お小遣い入ったから楽器買おう」というような人は、大々的に宣伝している量販店で買うでしょうし。でも、私たちからすると「ん?」と思うような所もある。まあ、大きな声では言えないけど(笑)。

どの辺に課題があるんでしょうか?

例えば調整。 ちゃんと調整したものを売りましょうよ、と。学校のブラスバンドではじめてコントラバスを始めるような子どもたちだと、どんなに弾きにくくても「こんなものなんだ」と思って買ってしまう。最初はみんな初めてだからわからないんですよね。わかる人はわかるし、わからない人はわからない。

最初からちゃんとした楽器で始めたほうが良いという話も聞きますので、しっかり調整してほしいですね。

ちょっとお金はかかるけど、調整するとすごく扱いやすくなり演奏も良くなる。「こんなに弾きやすかったの!?」って驚く人もいっぱいいます。そういうところは私の原点でもありますね。せっかく音楽やるんだから、良い楽器で楽しんでもらいたい。ま、それだけじゃ通用しない世の中ですけどね(笑)。

ところで、このバススタンドがとても気になります。

このスタンド、実は私が考案したものです。4、50年くらい前かな。いかに楽器を綺麗に並べられるかという目的で作ったんだけど、出来上がって使ってみたら楽器の固定にぴったりだった。ありがたい事に、神戸の震災でも倒れなかった。東日本大震災では、楽器の指板が割れちゃったって修理に来た人がいたんですが、それは、まわりから何かが倒れてきて割れちゃったみたいで、楽器自体は倒れなかったと言っていました。このスタンドは一番のヒット商品なんですけど、特許を取るとなると、立体図やら何やらめんどうだったので取ってないんですよね(笑)。

鳥居レベルの耐震性! 今からでも特許とってください!

ね…、とった方が良いのかな(苦笑)?

「弾きやすいか、弾きにくいか」というのは楽器屋の責任。

山本さんの深い経験から「コントラバス専門店をやりたい」という人へのアドバイスを頂けますか?

まずは体力! 自分の体と同じくらいの大きさの物を動かすわけだから、かなりの体力を消耗します(笑)。バイオリンだったら、椅子に座ってバイオリンをまわして作業するけど、コントラバスはバスのまわりを自分が動かなくちゃいけない。あと、スペースが必要。物が大きいからすぐお店の中がいっぱいになっちゃう。

繊細で職人的な技術を求められつつ、ガテン系なんですね。

まさしくそうですね。楽器は大きいけれど演奏する人には楽にたのしく使ってもらう、というのがモットーです。「弾きやすいか、弾きにくいか」というのは楽器屋の責任なんですよ。せっかく関心を持ってもらったのに、楽器屋の怠慢が原因で、やめてほしくないですから。

良い楽器を提供すべく、できうる限りのサポートが楽器屋の責任ということですね。

そう。コントラバスに関しては、ほとんどのサポートをしなくちゃいけないと思っています。うちのスタッフには正義感が強いやつがいて、変な修理をした楽器を見たり、粗悪な物を買ってきたりという話を聞くと、「なんだ、これは!」って、プンプンしてますよ(笑)。

お客さん思いの頼もしい激情家ですね(笑)。

お客様からの全ての要求に応えられるかは別として、そういった気持ちを持っていることが大事。弦楽器全体から見たら、コントラバスのハンディキャップはとてつもないものだもの。

コントラバスをもって移動してると、みんなから見られますよね。

まず、会場まで行くのがハンディキャップ。電車の中で白い目で見られても、じっと耐えたりね(笑)。それでもがんばって演奏してるんだから、それに応えなくてはならないのが楽器屋です。いくら良い職人であっても、大きさというハンデは取り省くことはできないですから。

では最後に、お客さんや読者の方達に山本さんからのメッセージをお願いします。

かならずしも『楽器の値段=音の良し悪し』というわけではありません。むしろ、基本的な値段はだいたい決まっているから、予算の上で自分の好きな音を選んでください。私たちはそれらを出来るだけお客さんが弾きやすくして売るように心がけてます。

職人の魂と心がけ、多くの方に届いてほしいです。本日は貴重なお話をありがとうございました。

インタビュー&ライター 浅井陽(取材日 2016年1月 / 最終更新 2019年7月)

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叙情的で歌ごころあふれる演奏でコントラバスの新境地を開拓した世界的なコントラバス奏者 。史上はじめてソリストとして地位を確立した先駆者でもある。数多くの公演や交流で来日し、日本を「第二の故郷」と語る。 アメリカ出身。
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