楽器屋探索ディープレポート Vol.23
大久保 石森管楽器
- 石森管楽器について
- 1951年、創業者の石森善吉によって「石森管楽器修理所」が設立されて以来、66年間にわたって卓越した技術とノウハウで、世界のプロアーティストから支持されている国内屈指の管楽器専門店。サックス、クラリネットを中心に、オリジナルブランドWood Stoneをはじめ、世界各国の一流メーカー品、ヴィンテージ楽器を販売。初めて楽器を手にされる方も、専門スタッフが丁寧に相談に応じてくれるから安心だ。B1ライブスペース、2Fスタジオを併設し、著名な演奏家のマスタークラスやコンサートも開催。
- 石森管楽器 店舗情報
- 石森管楽器 公式サイト
新宿区百人町1丁目20-23
TEL:03-3360-4970 (ショールーム)
営業時間:平日11:00〜20:00
日祝10:30〜19:00
毎月第1・第3水曜日定休日
楽器店の中の人に話を聞いてみた〜 石森管楽器 編
このコーナーは、楽器店でミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューしてお話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。
本日は管楽器店の老舗「石森管楽器」スタッフの横尾さんにお話をお伺いします。まずはお店の歴史からお聞かせください。開業したのはいつ頃でしょうか?
弊社は1951年に「石森管楽器修理所」として創業しました。今年(2017年)で66周年です。現社長の祖父にあたるのが、初代社長の石森善吉です。私は2002年、修理職人として入社して、現在はショールーム担当をしております。
となると現在が三代目となるのですね。創業時のお話などお聞かせいただけますか?
初代(石森)は、「管を曲げる技術」など、今では、あたりまえとなっているような管楽器製法のスタンダードを考案した管楽器職人で、日管(日本管楽器・のちにヤマハと合併する)の工場長をつとめておりました。
まさに日本の管楽器製造の基礎を築いてきたわけですね。
日管時代の管楽器職人はそれぞれ独立して、ムラマツフルートをはじめとする管楽器製造会社や楽器店を創業したことで、今の日本の管楽器界が成り立っているといえます。初代(石森)はメーカーではなく修理工房として独立スタートしました。
管楽器メーカーではなく修理工房としての独立を選んだのはなぜでしょうか?
はい、まずは持っている技術を生業にした、ということがあります。それと、日管時代から親交があった高橋治雄氏(高橋管楽器の初代オーナー)という職人さんとの交流もその理由の一つです。当時、日本では「管楽器を直して使う」という習慣がまだなかったのですが、ここ大久保に修理工房を構え、お互いに切磋琢磨しながら、管楽器修理を発展させてきたのだそうです。
では、現在の「石森管楽器」について教えてください。店内を見ますとサックス、クラリネットをメインに扱われているようですね。
はい、その通りです。もともとは修理で金管楽器のお客様も多く、トランペットやトロンボーンなども多く揃えていましたが、よりマニアックにサクソフォンを中心としてアクセサリーを揃えていくうちに今の形態になっていきました。
オリジナルブランド「ウッドストーン」も定着
一方で、演奏者人口の減少や音楽不況といった話題も耳にするところですが、老舗の石森管楽器さんからみて、そのあたりはどうでしょうか?
そもそも管楽器業界自体が、基本的にあまり変わらず、どこも試行錯誤していると思います。でも、この世から音楽がなくならない限りはお手伝いをさせていただける、と考えています。
たしかに、大きく成長していくような業界ではないのかもしれませんね。
それでも映画やテレビドラマの影響で伸びる時期があって、管楽器が登場するドラマが放映されると、突然人気が上がることがあるんです。有名なタレントさんがサックスを吹くシーンが放映されたりするだけで、売り上げも変わってくることもありますよ(笑)。
とくに吹奏楽部を舞台とした映画やドラマは定期的に放映されていますからね。
そうですね。今思いだすのは一昔前の「L×I×V×E」というテレビドラマでの吹奏楽ムーブメントはすごかったですね。それとスイングガールズという映画もすごかった。まさに旋風のように管楽器の人気が急上昇しました(笑)。
国民的な現象でしたよね。管楽器業界にとって喜ばしいことですが、そこまでブームになると、新たな店舗の新規参入もありますよね?そういう影響はありませんか?
以前は、ほんの数社の楽器店しかありませんでしたが、今では新大久保、大久保周辺には多くのお店が集中しています。その中で存在感を出すためには「オリジナルブランドを」と思い、30年ほど前からリードとリガチャーの製作をはじめ、各種アクセサリーやアルトサックス、テナーサックスといった楽器本体も開発し、国内外で大変ご好評いただいております。とくにオリジナルブランドのウッドストーンはかなり定着してきました。
オリジナルの開発の他に何か工夫された点などはありますか?
管楽器がブームになるとメインの購買層のニーズが変化していきました。そうなると、うちも商売がありますからね、当店としては、当時どの楽器店もまだやっていなかった中古楽器販売、ヴィンテージ楽器の輸入に目を向けました。
ヴィンテージ管楽器の輸入も、石森管楽器さんが先駆だったとは。
はい、管楽器ヴィンテージブームの火付け役を果たしたといえるでしょう。1994年に「石森管楽器修理所」から「株式会社石森管楽器」に社名変更し、2店舗目のビルを建てましたが、その時に修理だけではなくショールームやイベントスペースを設けるなど事業形態を変化させました。それを機に、海外やアメリカにあるヴィンテージ楽器を買い付け、整備、販売も始めました。そういった歴史もあって、今現在は修理をベースとして、ヴィンテージ、中古管楽器の販売も行っております。
フランス式とドイツ式両方のクラリネットを扱う
まさに管楽器業界全体をリードしてきたといえますね。
それと、ここまで競合店があるなかで、弊社をご支持頂いているのは「ドイツ式(エーラー式)」のクラリネットを扱っているのも大きいと思います。
ドイツ式、というのがあるのですね。詳しく教えて頂けますか?
まずクラリネットにはドイツ式(エーラー式)とフランス式(ベーム式)がありまして、通常、日本で使われているクラリネットの90%ぐらいはフランス式(ベーム式)です。とくに学生さんの吹奏楽では100%近くがフランス式と言っても過言ではないでしょう。一方、伝統あるドイツのベルリンフィルやオーストリアのウィーンフィルではドイツ式(エーラー式)を使用しています。
主流はフランス式(ベーム式)ということですね。
はい。そういった流れがあるなか、国内では珍しいドイツ式クラリネットを日本で広めたのが弊社でして、そのおかげでフランス式とドイツ式の両方を扱える店として有名になりました。
ドイツ式とフランス式の違いは?
まず設計が異なるので運指(指使い)が違ってきます。そして音色も全然ちがいますね。
音の違いを、具体的に教えていただけますか。
言葉で表現するのはむずかしいですが、フランス式は明るく丸みのある音色、ドイツ式は、いい意味で暗さがあり艶やかでしっとりとしている音色です。うーん、言葉では正確に説明できないですね(笑)。
とてもイメージしやすい説明ですよ(笑)。
さらに、ドイツ式のクラリネットをフランス式の指使いで使えるように改良された、リフォームドベームというものもあります。ドイツ式の音が好きだが、フランス式の運指に慣れてしまって、なかなか弾きにくいという方でも、無理なくドイツ式に移行しやすいように設計されました。
音色がドイツ式で、運指がフランス式ということですか?
そういうイメージです。結構前からある楽器ですが、クラリネット全体の歴史からすると新しいものですね。
世界トップクラスミュージシャンの楽器を担当
今も、工房で職人さんが作業をされていますが、何人位いらっしゃるのですか?
腕利きの職人10人体制で常在しております。最もベテランのリペア部長は、創業当時からの職人で、「神の技」を持つ人です。渡辺貞夫さんや、グラミー受賞プレイヤーなど世界トップクラスのミュージシャンの楽器をずっと担当しています。そのほか、多くの海外の著名なプレイヤーさんが公演で来日された際は、当店が修理やメンテナンスを担当いたしております。
それはスゴイ!楽器に向き合う職人さんの真剣さ、まさに良い音を生み出す最前線ですね。
修理部工房には、昔ながらの江戸っ子チャキチャキの職人がそろっています。その真剣さゆえ、職人気質の頑固でこわい印象を持たれるかもしれませんが、根は優しい職人さんです。お客様の楽器を直すことへの一生懸命さが醸しだす職人の空気も「石森管楽器の名物」として感じていただきたいです。
一流の職人技が多くの名演を支えてきたのですね。それでは最後に石森管楽器からメッセージをお願いします。
老舗のプロショップということで、気軽に入りにくいのではと思われるかもしれませんが、専門的なスタッフもおりますし、プロだけでなく、アマチュア愛好家の方、ビギナーの方、管楽器の世界により親しんでいただけるよう、お客様の「道しるべ」になれればと思っています。何とぞお気軽にご相談くだされば幸いです。
本日は貴重なお話と、お仕事中の楽器工房を見学させて頂きありがとうございました。
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